coresspondence: 鈴木宏平 04

2012年 02月 3日   /   correspondence
鳥取砂丘が近場ということは、西に来たことを感じさせます。

To: 鈴木宏平

From: 小川直人

 

このところ、春に向けて少しずつ体を整えています。と書くとなんだかスポーツ選手みたいですが、気持ちとしてはそんなところで、いわば自主トレ期間です。この1年あまりずっと子どもを中心とした時間の使い方だったので、集中して考えごとをしたり、文字通り運動をしたりほとんどできませんでした。それに、震災のおかげで想定していたよりは人と会ったり外出したりすることが多い日々だったものの、人との約束も基本的には子どもの都合が最優先(まあ、相手からすれば何様のつもりだという感じでしょうが)。春からはそのあたりの折り合いをつけていかなければなりません。まずは、一日の時間割を少しずつ変更してみたり、ストレッチや筋力トレーニングをしたり、子どもの方もトイレトレーニングを始めたり、この3ヶ月くらいかけて仕事復帰するための体作りです。

とはいえ、4月から子育てしないわけではないので、昨年までの通りの仕事の仕方にはならないでしょう。第一、家事だって仕事ではあるし、町内会のこともあるし(僕の住んでいるマンションは、同じ区画に隣接するマンションだけでひとつの町内会なのです)、このlogueもある。単純に収入を得る作業だけを仕事というものではないということはこの数年かけて身にしみて感じるところです。

鈴木さんは西粟倉村に暮らすようになって、デザイナーとしての仕事に変化はおきていますか? 見ず知らずの土地、それも(失礼な言い方ですが)そんな田舎暮らしになって、デザイナーという仕事が成り立つのかという素朴な疑問もあります。毎日どんなスケジュールで仕事をしているのか?新しいお客さんはいるのか?これまでとは違う考え方や作法を身につけなければならないと考えているのか?など、もしかしたらまだまだ起動中かもしれませんが教えてください。

 


To: 小川直人

From: 鈴木宏平

 

そうか、もう年明けも終わり春の準備を始める時期になったのですね。
今このお手紙を書いている窓の向こうでは今日もまた雪が降り続いているので、僕はまだ春のことまで思い至りませんでした。確かに雪解けの春からはこれまで以上に体を動かす日々になるはずなので、今からでも体づくりを始めなければですね。村に越してから参加し始めた月2回のフットサルでは、毎度足首やら肋骨を怪我をして帰ってくるので、いいかげん連れ合いからの冷たい視線を感じています。我ながら情けない。

小川さんはこの4月で育休から職場復帰されるのですね。
メディアでも男性の市長が育休を取る等で騒がれることはありますが、仙台市では小川さんのように父親が育休を取るケースは稀なのでしょうか。念のため西粟倉村へ問い合わせてみましたが、これまで村の職員で男性が育休を取得した事例はないとのことでした。
そもそも我が家は学生時代に上の子が生まれ、下の子が生まれた今も僕はデザイナーとして、パートナーはその手伝いと作家活動を自宅(兼事務所)で行って来たので制度自体にあまり馴染みがありません。ですが、身近で初めて育休中の小川さんの活動を見ていると、休むというよりはむしろ活発に活動されている様ですね。
「イクメン=育児に参加する父親」という言葉に僕は違和感を感じてしまいます。育児(家事)はそもそも参加するものではなく、分担するものと考えているからです。一般的には、まずパートナーと分担し、手(時間)が足りない部分を親であったり保育園などの施設で補う(昔はそれが近所付き合い等のコミュニティ内で行われていたのか)。夫婦の都合でその配分に差があったとしても、子育ては父親も母親も等しく責任のある『仕事』だなと思います。

さて、村に来た鈴木の一日はこんな感じです。
(もちろんすべての家事を僕一人でやっているわけではなく日によって役割が変わります。)

6:30  起床
|   炊事・子どもを着替えさせ朝食
7:50  上の子を見送る(村の小学生はバス通学)
|   洗濯・食器洗い
9:00  下の子を保育園へ
|
9:30  いわゆる始業(午前の部)
|
12:00 下の子を保育園へお迎え
|   簡単な昼食
13:00 仕事(午後の部)
|
17:00 いわゆる終業(昼の部)
|   炊事or子どもと戯れる
18:30 夕食
|   お風呂やら戯れやら
20:30 子ども達就寝
|   食器洗い
21:00
|   鹿に怯えながら小屋で仕事
24:00
|   ベッドに潜り込み、ヘッドライトで本を読む(ちょっとしたキャンプ気分)
25:00 就寝

と、書き連ねてみれば、これはまずい。これでは土に触れる時間がない!折角越して来たのに村の生活を楽しめていない!!

住んでいる地区での『とんど祭』(仙台でいう『どんと祭』)

「私の職業はデザイナーです」と村の人たちに話してもあまりぴんときていないようですが、それでも「ホームページを作ったりもします」と話すと納得されるのは時代でしょうかね。越して来て2ヶ月が経ちましたが、まだ新しいお客さんとまではいきません。一度、村の大工さんからパンフレットの相談はありましたが、残念ながら流れてしまいました。村内で言えば僕のデザイナーとしての仕事はあまりないでしょうし、成立しない(食べて行けない)と思っています。対企業・団体を主とした生業なので、人口が少ない場所では当然仕事もありません。
その分、今考えているのは生活の場としての村を楽しむことです。まだまだ知らない土地と住民がいるこの場所で、僕を含め、家族がどれだけ暮らしを堪能できるかがこれからの挑戦です。畑はもちろん、木工や草木染め、勉強会、ワークショップ、山や川遊び、まだまだやりたいことは沢山です。東京で絵に書いていた餅も、この地では暮らしの一部として楽しみたいと思っています。

村に住む素敵な夫婦のお宅で、木で作るスプーンのワークショップ。手で作ることは楽しい!!

収入を得るための仕事であれば、これまで東京にいたころのお客さんとのお付き合いを続けることと、積極的に村外へ出かけて行くことが必須になります。ネットのインフラが整い、離れていても作業を進めて行くことは可能になりましたが、それでも付き合いが始まるときは膝を突き合わせて初めて信頼関係は築けるものですよね。
そして、デザイナーがデザインをするだけの姿勢は通用しないので、これまで以上に「話を聞く→まとめる→ストーリーをつくる→形にする」という能力が必要だなと感じています。僕の生業としてのデザインは、あくまで『お手伝いをする』行為なので、僕自身が惚れた相手(モノ・コト)と継続的に付き合っていきたいですし、お客さんにも好きになってもらいたい。そのためには仕事の能力はもちろん、人間としての魅力を高めなければならないと、田舎に来たことできちんと意識させられた点です。

僕も春に向けて僕も準備を始めなければなりませんね。