report : lounge logue 09

2014年 10月 19日   /   lounge logue, report
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lounge logueの9回目は、ウェスティンホテル仙台 1F「The Westin Art Showcase」を会場に、宮城大学デザイン情報学科 助教 土岐謙次さんを迎えて、logueメンバーである酒井と、「マテリアライジング展Ⅱ 情報と物質とそのあいだ」(2014年7月19日 – 8月8日|東京芸術大学美術館 陳列館)のために共同制作を行なった作品「Tele-Flow」の話題を中心に対談しました。

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「Tele-Flow」は、東日本大震災で耕作放棄された宮城県南三陸町に宮城大学が植樹活動を行った一本のウルシ樹の生体電位を、実木を3Dスキャン、3Dプリントしたオブジェに、ネットワークを介して移植した作品です。 マイクロモーターが実装された葉柄は、植樹地からの信号によってかすかに振動し、現地の鳥や虫の声をリアルタイムに聞くことができ、南三陸町の豊かな自然の息吹が伝わります。対談では、「Tele-Flow」を題材に、土岐さんが取り組む、漆に関する手仕事的な技術を最新のテクノロジーの成果も活用しながら異分野にも開放し、漆の文化的価値を次世代に継承してゆくプラットフォーム作りの話を中心に進みました。

なかでも、3Dプリンターなどの普及によって、誰でもデータと機材があれば同じ品質のものが作れるという風潮に対して、実際には、データや機材を取り扱う者の感覚や技量によって異なったものが出来上がることもあること、そして、そこには手仕事の職人的な技と同じように、データや機材というテクノロジーを使いこなす熟達した技が求められるという指摘は、ものづくりの本質に迫るテーマの一つとして興味深く思います。

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また、「Tele-Flow」の制作にあたっては、土岐さんと酒井をはじめとした関係者のモチベーションが「全国大会を目指している部活」のようだったという話もありました。それぞれ専門性が異なる関係者が、お互いの専門性について、相手に託してよりよくする方法をみんなで考えて作るから楽しかったと。すべてが「そっか!そっか!」という感じで進んで、お互いにきちんと等価交換ができたことで、無軌道だけれども最終的にどうなるか不安はなかったと土岐さんは語ります。

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現在、漆の国産の比率は1%で、99%を輸入に頼っている中国の漆価格の高騰、加えて、国内で従事する職人の高齢化や後継者不足などによる収量の減少など厳しい問題に直面しているとの報告もありました。100年後も漆の文化を存続させるために、土岐さんをはじめとした宮城大学のメンバーは、植樹活動や「Tele-Flow」のような漆をテーマにした作品制作とその公開を通して、漆に関心がない人々にも漆に思いを寄せてもらう活動を続けていくとのことです。

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会場に展示された「Tele-Flow」が、南三陸の風を受けて葉を揺らしている姿を眺めていると、物質が情報化され情報が物質化されることで生まれた、独特の自然に関する情緒を感じます。ある意味、南三陸に植えられたウルシ樹の原木を直接眺めることとはまた異なったウルシ樹や漆への身近さを体験できる作品になっているように思います。(logue/柿崎慎也)