correspondence: 鈴木宏平 01

2011年 11月 6日   /   correspondence, interview
近くの神社 御神木か立派な杉が並んでいる

To: 鈴木宏平

From: 小川直人

 

内祝に鈴木米を使わせてもらった我が家の娘は片言話すようになってきました。教えてもいないのに「イヤイヤイヤ」とも言う(苦笑)。3月11日の地震以後いろいろなことが変わりましたが、日々成長する子どもの姿は、それらの変化のなかでも生きていくひとつの支えのように思います。鈴木さんのお子さんはどうですか?

さて、本当だったら(という書き方も変ですが)いまごろ仙台で子育てやら仕事やらいろいろ話をしていただろう鈴木さんが、岡山でしばらく暮らすという選択をしたならば、その新たな選択と生活について聴いてみたいと思った次第です。地震のあと、いろいろ取材されることは増えたけれど、あれは一時のことでしょう。暮らしていくということはもっと長い時間のものだし、その土地が傷ついた僕らにとって、いま判断できることはそれほど多くはないのだから、なにか正しいのかはひとまず別にして、この新たに選択した生き方について1年くらいかけてやりとりしてみようと思うのです。

これから岡山に移住するとのことですが、どんな準備をしているのですか。そもそもどんな場所なんでしょう?(そもそも僕は岡山に行ったことがない)

 


To: 小川直人

From: 鈴木宏平

 

お子さんの内祝いに鈴木米を設えたのが、もう1年半前ですね。生まれたときの体重を記したパッケージでしたが、先日初めて娘さんにお会いしたときには、もう随分大きくなっていたので何だか嬉しくなってしまいました。僕の上の子(7歳)は二学期からの転校生として楽しく学校に通っているようです。下の子(1歳)もちょっと会わないうちに、ちょろちょろと歩き回っています。親(僕のこと)の身勝手な想いかもしれませんが、3.11以降子どもの存在には本当に救われているんだなと思う日々です。

我が家は8月から岡山県の西粟倉村という人口1500人の村で新たな生活を始めました。しかし、いまのところパートナーと二人の子どもと別れて僕だけ単身赴任生活3ヶ月目です。
「なぜ岡山なの?」
とよく聞かれることがありますが、実は縁もゆかりもなかった土地でこれまで僕も行ったことがありませんでした。きっかけは村に住むある女性のツイートで『シェアメイト募集』を見かけたことで、何度かメールとツイッターでやり取りをした後実際に家を見に行くことになりました。留守番をしていた僕に興奮したパートナーから、
「星がきれい!水がきれい!蛍が飛んでる!」
と電話がかかってきたのが決め手となり、そこからはあっという間に引っ越したというわけです(我ながら直感的な行動一家ですね)。

庭先 近くの水路で捕まえて来た沢ガニを見聞中の長男

庭先 近くの水路で捕まえて来た沢ガニを見聞中の長男

西粟倉村は岡山県の北東部、鳥取県と兵庫県の県境に位置する山間の村で、源流の村と言われるようにとても水のきれいな土地です。
小学校と中学校ひとつずつ、スーパーはなく道の駅と温泉が湧くいわゆる田舎な場所で、上の子(1年生)が通う小学校はクラスメイトが10人。転校の挨拶に伺ったときは教頭先生が、
「久しぶりに全校生徒60人の大台に乗った!」
と満面の笑みで仰ってました。
我が家がある地区では10年ぶりに子どもが“生まれた”ということで、散歩の道すがら近所のおじいちゃんおばあちゃんに声を掛けられ、とれたての野菜までいただいちゃうコミュニティの新参者として生活しています。

先日、単身生活に我慢できず一週間程西粟倉に滞在していましたが、庭では紫蘇・零余子(ということは自然薯)・梅・桃・花梨・柚子、柿、無花果、月桂樹が採れるので、この季節の私の役目は毎朝の柿と無花果の収穫でした。日毎ばらばらに熟れる実を採り、食後のおやつに皆で口のまわりを赤くしながらも無花果を頬張っていると、実家で当たり前の様に裏の畑から採れた野菜を食卓に並べていたことを少しはできたかなと感慨深くなります。

村で一軒のパン屋 フランス人の旦那さんがお茶を出してくれる。新しい生活、新しい出会い。

村で一軒のパン屋 フランス人の旦那さんがお茶を出してくれる。新しい生活、新しい出会い。

西粟倉へ行ったら、まず畑を拓こう。鹿に食べられない様に柵を建て、野菜が育つ様に土を手入れしよう。そう、土に触れよう。

東京での単身赴任生活は、その脱皮期間の様なものです。11月中には進行中のプロジェクトも一区切りし、お世話になった方々へ挨拶まわりをしています。自称『鈴木=デザイナー』としての東京の生活を経て、そろそろ『鈴木=デザインもする人』になりたいと思います。ひとまずは1年間、毎月のお便りを楽しみにお待ちしています。